=ア’ァーキ


 少女は、小さな翼を持っていた。
 白く柔らかな背中に、それより白く柔らかな、一対の羽毛を。
 だが、それを見せることも、使うことも、彼女には禁じられていた。
「その翼は、混沌の変異だ」
「お前は、ミュータントだ」
「お前なんか−−」
 お前なんか、生まれて来なければ良かったのに。
 
 淋しかった。

 その晩は、少女が8歳の誕生日を迎える日だった。
 暗い森の中で寄り添うようにできた村の家々は、影を追い払おうと必死にささやかな明かりを灯し、少女はその滲む光を、窓からぼんやりと眺めていた。
 時が経つ。そして、8年前に彼女が生まれた、ちょうどその刻、その時間。
 少女の体は、内から裂けた。

 激痛が身を灼く。己の遺伝子に深く刻まれていた混沌の素が、全身に一気に爆発する。
 膨らみすらなかった乳房は混沌の波動にまかせて膨れ上がり、小さな服を押し上げて、ついにはそれを引き裂いた。
 成長し続ける胸を、泣きながら押さえ込む。だが、沈み込む手のひらが、乳房全体の神経に途方もない快楽を送り込む。
 初めて味わう性の快楽が、胸から背骨を下って、下腹で炸裂した。
 脳が白く染まった。涙が溢れると同時に、毛織りの下着とスカートを突き破って、巨大な肉の柱が飛び出した。
 快感は下腹でうねった後、二本の柱を駆け上り、数度の収縮を経て、飛び出す。
 自分の身に何が起きているかも分からないまま、少女−−両性具有となったミュータント・レードルは、精通の体液を部屋中に撒き散らした。
 彼女の覚醒を祝うように、白い液体は天井を舐め、壁を汚し、柔肌に降り注いだ。
 意識が遠のく中、上半身を覆う布きれが吹き飛び、純白の翼が広がる。
 白く染まった部屋の中、レードルは何も分からず、泣いた。


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