【SS】宴のあと

by 神宮寺


 

 

 

シュウゥッ.......ドサッ.......シュウゥッ

 

 

 

はぁぁぁ、疲れた」

「今、お茶入れるよ」

エビチがいい」

「駄目。三次会まであんなに飲んだだろう....」

「いやだ、エビチがいい」

「はいはい....」

 

苦笑いしつつ、加持は自分とリビングで寝転んでいる新妻の分の缶ビールを冷蔵庫

から取り出した。加持も今夜の宴会でいやと言うほど飲んだのだが、女房が飲む以

上自分も付き合うつもりだった。酒を飲む時、連れが付き合わないというのは寂し

いものだし、なにより、加持は優しい男だった。

 

 

ゴクゴクゴクゴク

 

 

ぷっはーーーー!この一杯の為に生きてるって感じね」

 

 

リビングのカウチに身体を預けながら、ミサトは豪快にエビチを呑み干す。

 

 

「相変わらず、豪快だな。いいな、それ一杯だけだぞ」

 

 

ミサトの傍らに腰をおろし、加持は生ハムをつまむ。

 

 

ちぇっ、いいじゃない。今日は仲人大役を果たしたんだし...」

 

「駄目。駄目。大体、その大役だって葛城がうかつに保証人の判子を押さなきゃ、

 しないで済んだんだからな」

 

あぁ!また、葛城って呼んだー!

 

「あぁ、ごめん」

 

「もう、結婚したんだから名前で呼んでよね。加持君」

 

「ミサトもな....」

 

 

そういいながら、加持は自分の唇で新妻の反論を止めた。

 

 

 

……新婚なんて、所詮こんなものである(^^;

 

 

 

「しかし、リツコも私達に仲人なんか、やらせないで欲しいわね〜」

 

エビチ1ダースが結局高いものについたな....」

 

「だって....あの時のリツコって目が尋常じゃなかったのよ。私が断っても結

 局、勝手に判子偽造して届を出すだけだろうから、それなら、エビチ貰えるだけ

 得だと思ったんだもん」

 

「でもなぁ、新婚旅行から帰った報告を碇司令にしに行ったら『来月式を挙げるか

 ら仲人を頼む』と言われた時は目が点になったぞ」

 

 

 

……そりゃ、点にもなるわ(^^;。

 

 

 

「分かってるわよ。あの時、隣にいたじゃない」

 

「大体、碇司令も碇司令だよな。仲人なんか、普通上の人間がやるもんだぞ。

 それを『保証人を君の奥さんがやったんだから、仲人は君ら夫婦に頼むのが筋だ

 ろう』って...」

 

「案外、なり手が無かったんじゃない.....」

 

 

 

……そうかもしれない(^^;。

 

 

 

「それにしても楽しい式だったな。参加メンバーみんな楽しそうだったし」

 

「私、あんなに上機嫌な冬月副司令見たことないわ」

 

「あぁ、あの『碇君の結婚式を見れるという幸運に会えるとは思いませんでした。

 ただ、これを機会に六分儀性に戻って貰えなかったのが唯一残念です』っていう

 スピーチにはどういう意味があるんだろう?」

 

 

 

……そうか、心理的にユイと離婚したと取ったのか(^^;。

 

 

 

「それに、主賓のキール議長が祝いの席だからこういう無粋なモノは外しましょう

 って言ってゴーグルを外したら、その下にあった瞳!あんな綺麗な二重まぶた

 ぱっちりお目めとは思わなかったわ!」

 

 

 

……が思うんだ、が(^^;。

 

 

 

「ところでミサト気付いてたかい?ゼーレの皆さんが来てたの」

 

えぇっ?どこ?気付かなかったわ」

 

「スピーチの後のキール議長の人間ドミノ倒しだよ」

 

「あの黒いモノリス?」

 

 

 

……委員会って、随分平和になったのね(^^;。

 

 

 

「そう言えば、日向君とマヤちゃんの『私達、婚約しました!』には驚いたなぁ」

 

「マヤがリツコの結婚で落ち込んでたのは知ってたけど.....私、てっきり

 相手は青葉君だと思ってたのに」

 

「お互い似たような境遇だったから慰めあってるうちにそれが...ってパターン

 じゃないかな」

 

えっ?日向君、そんなに落ち込んでたのかしら?」

 

 

 

……ふったという自覚はあったのね、一応(^^;。

 

 

 

「おいおい、自覚がないのか?あんな酷い事しといて....」

 

「そんなに酷かったかしら....」

 

酷すぎるよ。俺達の披露宴の司会をやってもらったのに、彼に頑張れよキープ君!

 って野次が飛んだ時、ボソッと『みんな、分かってたのね』って呟いたろ。

 あれ、聞こえてたぞ、日向君に....」

 

「それは....ちょっちゅ、まずかったわね」

 

 

 

……ちょっちゅどころでなく、まずかったと思うぞ(^^;。

 

 

 

「でも、結果オーライってことでいいじゃない」

 

「そういう問題かなぁ...」

 

「そういう問題よ。二人とも幸せなんだから、いいじゃない」

 

 

 

……そういう問題なのか(^^;。

 

 

 

「でもなぁ、今日の青葉君のギターは何か鬼気迫るモノあったなぁ....」

 

「そう、『俺のギターを聴けー!』って叫んでるのに、皆、話に夢中で誰も聴いて

 なかったし.....」

 

 

 

……強く生きろよ、シゲル(T_T)。

 

 

 

「聴けといえば、アスカレイちゃんてんとう虫のサンバお約束だけどよかっ

 たな。可愛らしくて」

 

「でしょおぅ、大変だったんだから....」

 

「アスカがあの後『使徒がいなくなったっていうのに、ドイツから呼び出された挙

 句、よりによってファーストユニゾン特訓するなんて思わなかったわ』って、

 ぶーたれてたけど。」

 

「ふっふっふ......」

 

「可愛かったけど、あの格好は一寸いただけなかったぞ」

 

「あら、日本人は形から入るものよ!」

 

「なら、形が違うてんとう虫のサンバピンクレディの曲じゃない!」

 

「セカンドインパクト前の資料って、少ないのよね〜」

 

 

 

……てんとう虫のサンバは、チェリッシュの曲である(^^;。

 

 

 

「そういえば、シンジ君のスピーチもよかったわね」

 

「うん。真にこもってた」

 

『僕は父さんの息子ですが、父さんの事をちっとも知りません。ちっとも分かり

 ません。リツコさんと結婚するではなく、結婚したと聞かされた時、僕には一生

 父さんを理解出来る事はないと思いました。そして今日の結婚式でその事を確信

 しました....それでも、僕は二人には幸せになって欲しいと思います』って

 その後の台詞が涙混じりでよく聞こえなかったけど....あぁ、シンジ君立派

 になってって....」

 

「うん、しかも最後に『僕は父さんを理解しなくてもいいんだ!父さんを理解でき

 ない僕がいてもいいんだ!だから.....おめでとう!って言った時は場内

 割れんばかりの拍手がおこったなぁ」

 

 

 

……ここは、笑うべきなんだろうか(^^;。

 

 

 

「ところで、シンジ君....レイちゃんどうなんだ?」

 

「あら、二人とも今日、楽しそう会話がはずんでたじゃない」

 

「あれが?倦怠期の夫婦だってもっと口数が多いと思うぞ」

 

「それは、貴方がまだ二人の付き合いが浅い証拠よ」

 

「そうかなぁ。だって俺が聞こえた会話って....

 

 

 

 『綾波......朝ご飯とかどうしてるの?』

 

 

 

 って、シンジ君の問に、そっけなくレイちゃん

 

 

 

 『食べない時の方が多いわ』って返しているだけだったけど.....

 

 

 

 大体、シンジ君、高1だから、え〜と16か。それにしちゃぁ奥手すぎないか?」

 

シンジ君にしては上出来だと思うわ」

 

「だって、彼、俺達の結婚でミサトの部屋からレイちゃんの隣の部屋へ、ペンペン

 連れて引っ越してから、2ヶ月も経っているんだぞ!」

 

 

 

……それは、ちょっちゅ情けないと思ふ(^^;。

 

 

 

「あら、それじゃ、加持君」

 

ミサトは、わざと夫を名字で呼び、蠱惑的な笑みを浮かべた。

 

「その後の、シンジ君の一世一代のプロポーズに気付かなかったのね」

 

「プロポーズって....できたのか?」

 

 

 

……この場合、『プロポーズできた』という意味にとってくださいm(_ _)m。

 

 

 

「そう。見物だったわよ。まず、シンジ君が言うの。声を少し震わせてね。

 

 

 『綾波....これからリツコさんの事なんて呼ぶの?』

 

 

 そしたら、レイったらいつもの調子で

 

 

 『碇博士』

 

 『そ、そうなんだ.....』

 

 

 

 『............』

 『............』

 

 

 

 『父さんはどう呼ぶの?』

 

 『碇司令』

 

 

 

 『............』

 『............』

 

 

 

 『混乱しない?大体呼びにくくない?』

 

 

 

 『そうね....』

 

 

 

 『いい方法があるんだけど』

 

 

 

 『どうするの?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『僕と結婚すれば、父さんの事、碇司令って呼ばなくていいよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 .......って。シンジ君もう顔真っ赤にして言ってたわ」

 

 

 

……そこの貴方、目が点にならない様に(^^;。

 

 

 

「それって、プロポーズなのか?」

 

「そうよ。一世一代のね」

 

「それで...返事は?」

 

「それもね。傑作なのよ。

 

 

 

 レイったら......

 

 

 

 

    即座に、たったの一言で答えたの.....

 

 

 

 

 

    まだ無理よ』って。

 

 

 

 

 

 もう、その瞬間、シンちゃん、真っ青になっちゃって」

 

 

 

……光景が目に浮ぶ(^^;。

 

 

 

「なるほど、まだ無理』って言った訳だ。レイちゃんは」

 

「そう。当然続きがあるの」

 

「なんて、言ったんだい?」

 

 

「こう言ったのよ.....

 

 

 

 

 

 

 『民法で結婚は女は16才男は18才にならないとできないの....』って」

 

 

 

 

 

「レイちゃんらしいなぁ」

 

「わたし、頬を染めるレイなんて、はじめて見たわ」

 

 

 

……まぁ、あの二人ならこんなもんでしょう(^^;。

 

 

 

「それは....是非見たかったなぁ」

 

「大丈夫。多分見れるわよ。相田君が一生懸命カムコーダーまわしてたから」

 

 

 

……ケンスケ、保存用鑑賞用に1本づつ、ダビングお願いしますm(_ _)m。

 

 

 

「しかしなぁ、考えてみれば今日の式、ほんと派手だったよなぁ」

 

「大体、式場がジオフロント内の特設会場ってのが職権乱用しすぎよ」

 

野外パーティなのに、ネルフの総力あげて会場作ってたものなぁ」

 

 

 

……そりゃ、乱用し過ぎだわい(^^;。

 

 

 

「考えて見りゃ、結婚式から派手だったものなぁ」

 

「まず6頭立ての白馬の馬車で教会入りだもんね」

 

「それでリツコの赤いウエディングドレスは、まぁいいとして。碇司令のあの白い

 タキシードだけは勘弁して欲しかったわね」

 

「しかも、髭を剃って眼鏡なしだものなぁ」

 

 

 

……死んでも見たくないぞ、んなもの(^^;

 

 

 

「それに、披露宴入場の時のメンデルスゾーンの結婚行進曲がフルオーケストラの

 生演奏っていうのは、まだいいとして、スモーク炊いてゴンドラにのって空から

 降りて来るってのは勘弁して欲しいかったなぁ」

 

「あれは、みんなこおったわねぇ」

 

 

 

……それは、こおるしかあるまい(^^;。

 

 

 

「しかも、お色直しは5回だもんなぁ」

 

「1回目のラメ入りのウエディングドレス、2回目の高島田はまだ綺麗って言う声

 が上がったけど、あの3回目のターザンとジェーンって格好だけは勘弁してほし

 かったわねぇ。碇司令の胸毛なんか見たくなかったわ」

 

 

 

……見たい人が、この世の中にいるのか(^^;。

 

 

 

「俺はその後の、中華風の碇司令の弁髪の方が嫌だったぞ。まぁっ、リッちゃん

 チャイナは良かったけど」

 

 

 

……意外に似合っているかもしれんが、み、見たくないぞ(^^;。

 

 

 

「う〜ん、でも最後のアレだけは勘弁して欲しかったわね」

 

碇司令エルビス=プレスリーの格好して、『愛しのエリー』リツコの名前

 歌ったアレか......」

 

 

 

……すいませんm(_ _)m。フォローの言葉がみつかりませんm(_ _)m。

 

 

 

「同期の連中が皆言ってたわ。リツコは最後まで残ったから自棄になって開き直っ

 たに違いないって。あの勝ち誇った表情は何って?」

 

30過ぎのオールドミス子持ちやもめの50親父の結婚式じゃないよな」

 

「ケーキにナイフ入刀で、戦自のが上がるのも勘弁して欲しかったわね」

 

「あれ、最初はN2爆雷にするって話だったらしいぞ」

 

「人死にがでるわよ。んなもん」

 

 

 

……そこで死ねた方が、みんな幸せだったかもしれない(^^;。

 

 

 

なぁ....

 

「どうしたの?急に不安な顔しちゃって?」

 

「いや、今気がついたんだけど、あれ、本当に自棄になったリッちゃんの趣味かな」

 

「えっ?」

 

「いや、だってリッちゃん、印鑑を偽造して勝手に結婚届けを出したんだろう?

 そんな人が結婚式にこだわるとは、俺、思えないんだけど.....」

 

碇司令の趣味だっていうの?冗談よしてよ。大体司令は二度目なのよ。

 二度目なら、式を挙げないって人だって多いのよ」

 

「いや、冬月副司令に聞いたんだけど、碇司令、前の時はセカンドインパクトの直

 後でそんなもの挙げる余裕がなかったって、それで、前の奥さんがひどく残念が

 ってたって....話してたから.....」

 

「考え過ぎ。考え過ぎ。今夜はもう寝ましょう。明日は仕事なんだし.....」

 

「しばらく忙しくなるな。碇司令達、留守だから」

 

「そう。二人とも常夏のハワイへ1週間のハネムーンだもの」

 

「それも....リッちゃんの趣味かなぁ」

 

「いいじゃないの、もう」

 

「うん、そうだな...」

 

 

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同時刻、太平洋上3万メートル

 

 

ヘクシュン

 

「あら、風邪ですか碇司令?」

 

「大丈夫だ。でも、寒いから、もっとこっちにお寄り、リッちゃん」

 

「はい、ゲンちゃん」

 

  ・

  ・

  ・

  ・

  ・

 

「あら、冬月先生。

 あの人はとてもかわいい人なんですよ。

 みんな、知らないだけです」

 

 

 

知らない方が幸せかもしれんな」

 

 

 

 

< 完 >


 

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