かぜひきシンちゃん
 −− ぶらっでぃ〜バージョン −−



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P! プシュッ!



「ただいま〜! .....シンジ.....? いないのかな...?」



靴はある。 でも。 いつもならキッチンからいい匂いが漂ってくる筈なのに...。
灯も点いてない。 何より、いつもの同居人の返事がない。



「おっかしいわねぇ...。 ちょっと! シンジ! いるんでしょ?」



「あ、アスカ...。 おかえり」



声とともに。 突然。 抱きしめられた。



「あ...ちょ、ちょっとシンジ?! 抱きしめてくれるのはすっっっごく嬉しい
 んだけどぉ、その...まだ心の準備が.....っ.....きゃぁぁっ!



錯乱して。 ついつい。 自分でも気付いていない本音が零れる。 と。
ソファに押し倒された。 胸元に、熱い吐息がかかる。



「もぅっ! シンジったらぁ...どうしたのよ、急に...って、どうしたの?
 ちょっと、シンジ?!」



ここに来て。 異常に気がついた。 押し倒されたまま、何もされない。
ただ胸に顔を埋めたまま。 熱すぎるほど、熱い吐息。 .....熱い?!



放したくない気持ちと死闘を演じ。 頭をかき抱いた腕を外して。 額に触れる。



「ちょっと、シンジ! .....どうしよう.....凄い熱.....」



抱きしめられたんじゃない。 ただ。 ふらついて。 しがみつかれただけ。
立っていられなくなって。 崩れた拍子に押し倒されただけ。



「う〜、ちょっと残念...って、そんなこと言ってる場合じゃないわ!
 え、えぇと...」



ママが死んで以来。 いつでも「一番」であり続ける事を自分に課してきた。
風邪なんて、ひいてる暇はなかったから。 看病されることもなかった。
看病する相手も、いなかった。



どうしていいのか分からない。 えぇと、風邪ひいた時って、ママはどうしてくれたっけ.....。 必死に、古い記憶を手繰る。



「.....と、とりあえず、ちゃんと寝かさないと.....」



でも。 背格好は自分と変わらなくても。 頼りなく見えても。 同年代の男の子にしては細くても。 シンジもやっぱり男の子。 重い。



「はぁ...。 ペンギンの手(?)も借りたいけど.....やっぱり無理よねぇ」



「クァ...」



いつの間にか心配そうに(?)覗き込んでいたペンペンに。



「よっこらしょ、.....っと」




「レイ! どうしたの? ちゃんと集中なさい!」



「.....はい.....」



「どう?」



「シンクロ率、いつもよりマイナス12%...。 あまりよくありませんね。
 ハーモニクスも安定しませんし.....」



「今日データを取るのは無理、か...。 今日はレイだけの予定だからシンジ君も
 アスカも呼んでないし...。 しかたないわね。 日を改めましょう」



「でも.....明日はここの設備、定期点検入ってますよ」



「はぁ...。 じゃ、次は明後日ね。 今度は念のためシンジ君も呼んでおき
 ましょう。 .....レイ! 聞いての通りよ。 今日はもう上がっていいわ。
 そのかわり、明後日までにしっかり調子を整えておきなさい」





LCLを抜いて。 プラグ排出。 ロッカールームに消えるレイを見送りながら。



「先輩...。 これ、最近のレイのデータなんですけど.....ちょっと見て下さい」



「.....シンジ君がいる時といない時で、露骨に差があるわね」



「はい。 それにこれとこれを見比べると...」



「シンジ君の調子に連動してるのね」



「アスカも、レイほどじゃないですけど、同じ傾向が出ています」



「そうね.....。 これから先、シンジ君のコンディション管理がますます重要に
 なってきそうね.....」



ちろり。 背後のミサトに視線を投げた。 顔を見合わせて。



はぁ...。



ため息ふたつ。



「ちょっとぉ! 何よ、そのため息は!」




私.....どうしたの.....?



先程から、胸騒ぎがする。 ココロが、落ち着かない。 エレベーターに一人。
自問しても。 答えは出ない。 ただ。



「..........碇くん..........」



ポツリと、呟く。 気がつくと。 いつもと違う場所へと、足が向いていた。




何とかシンジをベッドに運んで。 荒い息を吐く。 と。 呼び鈴の音。



「はぁ...もう、それどころじゃ、ない、わ.....」



もう一度。 そして、もう一度。



「もうっ! うっさいわねぇ!」



P! ロックが外れ。



プシュッ!



扉が開く。



「.....え?!」



慌てて部屋を飛び出すと。



紅い瞳と蒼い瞳が。 火花を散らした。





「ちょっと! ファースト! 何であんたが来てるのよ!」



「碇くんは...?」



「い、いないわよっ!」



「嘘。 .....部屋に居るのね」



するり。 アスカの脇をすり抜けて。



「ちょ、ちょっと! 待ちなさいよっ!」



罵声を背中で受け流し。 シンジの部屋へ。 一目様子を見て。 血相を変えた。



「碇くん! ...大変.....熱は?」



額に触れて。



「39度...いえ.....40度くらい? .....体温計は?」



「あ、え、えぇと.....そんなのあったっけ.....?」



「いいわ...。 医者は? もう診てもらったの?」



「あ! そ、そうね。 今呼ぶわ。 え、えぇと.....電話番号.....」



「貸して」



ひったくるように受話器を取り。 ダイアル。 状況説明。



「本部に連絡したわ。 すぐ、往診に来るって」




「.....何で来たのよ.....。 だいいち、あんた、今日テストだったんじゃないの?」



医師に部屋を追い出されて。 手持ち無沙汰。



「胸騒ぎ.....。 集中できなくて.....テスト、中止になったから」



「ふ〜ん.....。 ま、助かったわ。 ....................ありがと





程なく。 顔馴染の内科医が顔を出す。



「あの.....先生.....」



「あぁ。 インフルエンザだな。 少しこじらせたようだが...ま、入院するほど
 じゃないだろ。 注射を射っておいたから、明日の朝にはだいぶんよくなってる
 はずだよ。 ...それはそうと、二人とも、腕を出しなさい」



「.....ゐ?!」



「なに変な声出しとるんだ? もう遅いかもしれんが、一応、予防接種はして
 おこう。 チルドレンが3人ともダウンでは洒落にならんぞ。
 .....それとも、彼のことは我々に任せて入院させるかね?」



何も言わず腕を差し出したレイに注射を終えて。 笑いを含んだ声で。



..........は〜い.....(T^T)



ぐっすん。 アスカ、観念。



「ま、電話で大体予測はついとったから、まだ染っていなければ大丈夫だろ。
 それじゃ、私はもう戻るから。 彼が目を覚ましたらとにかくお粥か何か
 食べさせて、食後にこの薬を飲ませてあげなさい。 あとは...そうだな、
 かなり汗をかいているし、この後もかくだろうから、こまめに汗を拭いて
 あげることだね。 一応着替えはさせておいたが、状態によっては今夜もう
 一度着替えさせた方がいいかもしれんな。 そうそう、水枕があれば頭を
 冷やしてあげるといいが.....ない? なら、濡れタオルか何かでおでこを
 冷やしてあげなさい。 いいね?」



散々言うだけのことを言って、医師は引き上げていった。



.....いいのか?(爆)




「.....あんた、いつまでいるつもり? あとはあたしがやるから帰んなさいよ」



「嫌」



「それとさっきから気になってたんだけど...あんた、どうやって入ってきたのよ?」



「葛城三佐が。 何かの時のためにって、カード、登録しておいてくれたわ」



「く.....ミサトのやつ.....余計な事を.....」



「使うつもり、なかったけど.....良かったわ。 あのままじゃ、碇くんが.....」



「う..........」



何も言い返せないアスカに見向きもせず。 シンジの汗を拭い。 額に乗せたタオルを替える。
一見、無表情。 でも。 指先まで神経の行き届いた。 優しい仕草。
その全てがアスカの危機感を煽り。 苛立たせる。



シンジが好き。 自分でも気付いていなかった...いや、認めたくなかった想い。
問答無用に突きつけられて。 らしくもなく。 アスカのココロは、乱れた。



と。 唐突に。



「.....バスタオル...なるべく大きいの、ある?」



「え? あ、バスタオル、ね。 持ってくる!」




ややあって部屋に戻ると。 プラチナの少女が、シンジの夜着のボタンを外していた。



「ちょ、ちょっとファースト! あんた何やってるのよ!!」



「...バスタオル...」



「え? ...あ、これ...」



「手伝って...」



二人でシンジの体を持ち上げ。 下にバスタオルを敷く。





「.....ちょっと、まだ答えを聞いてないわよ」



「碇くん.....寒そうだもの.....」



よく見ると。 確かに、小刻みに震えている。



「なら脱がしてどうするのよ!」



「寝間着、だいぶん湿ってきたわ」



「そ、そうだけど.....ちょっと! パンツまで脱がせない! えぇと...



寝間着の替えを探すアスカの背で、衣擦れの音。



冷や汗たら〜り。 慌てて振り返る。



ちょっとぉっ! あんた何やってるのよっ?!」



「.....暖めてあげるの.....」



最後の一枚を脱ぎ終えたレイが。 シンジに寄り添うように横たわり。 抱きしめた。
うっすらと、頬が紅い。



「う〜...もうっ! これ以上引き離されてたまるもんですかっ!」



勢いというのは怖い。 ジェラシーも手伝って。 アスカも、また...。



ちょっとあんた! どこ触らせてるのよっ!」



「..........問題ないわ..........」



「あんたねぇっ!



「それより.....毛布、掛けて...」



そういう間にも、シンジの汗を拭ってやっている。



「.....わかってるわよっ!」



ばっ、と、3人まとめて毛布をかぶる。 しっかり、触らせるのも忘れない。
レイと、同じように...。



..........おやすみなさい..........。



いいのか? をゐっ!(^^;;;;;














目が覚めると。 あま〜い匂いに包まれていた。 いい匂い...。 一部、妙に元気になっているのを自覚する。 それに。 何故か、身動きできない。
腕も、脚も。 両方とも、なにやら柔らかなものに絡めとられたようで。



感覚が、少しずつ戻ってくる。



掌には、しっとりと滑らかで。 柔らかで。 それでいて張りのある感触。
左右とも、甲乙つけがたい。 ほんの少し、右の方が滑らかかな.....。



「「ん.....」」



ステレオで。 甘い声。 ..........ゑ?!



はっと、目を見開く。



「.....気がついたのね.....」



優しい囁き。 辛うじて動く首をめぐらし。 右を見る。



「あ...あ...あ...」



「熱、まだ少しあるけど.....だいぶん下がったわ」



おでこをくっつけて熱を確認すると。 レイは、優しい微笑みを浮かべた。
すかさず。 わずか数秒。 唇を重ねる。 左が、身じろぎして。



あ〜〜〜〜〜っ! ファーストっ! なに抜け駆けしてるのよっ!



完全に無視。 唐突に。 惚けたシンジのおなかが鳴る。



「.....何か、作るわ。 待ってて.....」



スルリと、ベッドを抜け出す。 絶妙のプロポーション。
少年の目を、白い裸身が射貫く。



脱ぎ捨てた服に、見向きもせずに。



「.....手伝うんでしょ.....?」



全身で振り向き。 赤毛の少女に視線を投げる。



「あ.....あったりまえでしょっ! あ、あんたは寝てなさい! いいわね?!」



起きようとした少年を押さえつけ。 唇を奪い。 ベッドを抜け出して。 毛布を直してやる。



ふと思いつき。 にんまり笑って。 くるりとひと回り。 紅い瞳の少女を追う。





−−− え〜と.....帰ってきたら気分悪くて.....腰掛けたらそのまま寝ちゃって...



−−− アスカが帰ってきて...ふらついて、しがみついて..........そのあと.....



少年のこめかみを、特大の冷や汗が流れる。



−−− おぼえて、ない..........



蒼ざめる。



−−− で.....起きたら.....いい匂いがして.....



−−− パンツ一枚で.....



−−− 綾波とアスカが抱きついてて.....二人とも、裸.....で.....



−−− 綾波と.....アスカの.....太股に.....触って、て..........



ぷっつん。



意識が、飛ぶ。





二人の美少女が戻ってくると。



シンジは。




..........鼻血の海に、沈んでいた。


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