「ウキャキャキャキャキャキャキャキャ〜〜〜〜〜っ!」(むぁて〜! くぉのっ!)
「キィ〜〜〜ッ!キィ〜〜〜〜ッ!キィ〜〜〜〜〜ッ!」(ま、待ってくれぇ〜!)
街道を外れた森の中。
少年と少女が、
2匹の猿に追われていた。
「何で、追ってくるんだろう?」
「.....斬る...?」
「だ、駄目だよ。 可哀想じゃないか」
常軌を逸したスピードである。
軽く木の幹を蹴ったような1歩が、数m。
が。
それだけでなく、
少年の方がお姫様抱っこされているのもまた、
常軌を逸している。
「ウキキキキィ〜〜〜〜〜っ!」(せっかく見つけた獲物、逃がすもんか!)
「ウキッ! キィ〜〜〜...」(ところで、俺達もつくづく妙だよなぁ)
赤毛猿と眼鏡猿、
という組合せも妙なら、
眼鏡猿が本当に眼鏡をかけている、
というのもさらに妙である。
だいいち、
眼鏡猿がこんな動きや鳴き方をするのか?
「ウキャァ〜〜〜〜〜っ!」(文句があるなら紫の魔女に言いなさいよね!)
どうやら、
何者かの呪いらしい。
「あの...あや.....れ、レイ、この態勢、凄く恥ずかしいんだけど」
「.....駄目.....。 シンジ様、騎士じゃないもの...」
「う゛.....」
二人とも、
涼しそうな白い袖無しの短衣に編み上げサンダルで、
帯刀している。
裾は、
少年の方はストレートに膝丈。
少女の方はずっと短く、
プリーツ入りのミニスカート風仕立て。
透き通るように白い、
艶やかな素肌を惜し気もなく晒す、
すらりと美しい、
少女の脚線。
同じ年頃の少年をお姫様抱っこしていてなお、
軽やかな身のこなし。
どこか高貴さを感じさせる風貌の二人。
年の頃は15か16くらいだろうか。
最上の絹の装い。
だが、
短衣は貴族の服装ではない。
普通ならば。
その剣も、
ギリシャ風の装いとは無縁の筈の、
最強の刀剣、
太刀。
ミスマッチな筈のそれは、
意外なほど、
当たり前のようにしっくりと収まっている。
それはさておき。
その態勢もさることながら、
少年が困っているのは.....
これまた少女の方だけ深く切れ込んだデザインになっている胸元から覗く、
年齢の割にかなり豊かな膨らみと、
鮮やかな谷間から、
目が離せないのだ。
..........男の子だねぇ.....。
が。
逃避行にも、 終焉は訪れる。
突如、
目の前が開け、
小さいながら清冽な泉が姿を現した。
「...くっ!」
ただならぬものを感じ、
少女が足を止める。
と。
はずみで少年の太刀が外れ、
泉に飛び込んだ。
「あっ!」
手を伸ばしても、
もう遅い。
と。
「ウキャキャキャキャッ!」(追〜いつ〜いたっ、と!)
追いついた赤毛猿が、
見事な宙返りを披露する...と、
その姿が紅髪碧眼の美少女に変わった。
麻のミニ丈短衣からすらりと延びた脚線美が鮮烈である。
続いて、
宙返りをした眼鏡猿が冴えない眼鏡の少年に変わり.....口元から落ちた。
「いででででででで」
「ったく! 冴えないヲタク眼鏡猿ね!」
「それはちょっと酷いじゃないか...」
「だ・ま・り・な・さ・い!」
「.....赤毛猿と、眼鏡猿が.....」
「.....赤毛猿と、眼鏡猿のままね」
「うっきぃ〜〜〜〜〜っ! ぬぁんですってぇ〜〜〜〜〜っ?!」
「ほら、やっぱり」
「あ・の・ね! アタシたちはひょんなことから紫の魔女を怒らせちゃって猿に
変えられたのよ! アタシたち、まだ3歳だったのに.....。 見かねた金の魔女が
戻そうとはしてくれたけど.....結局1回に15分人の姿に戻れるようになっただけ
なのよね...。 1度戻ると3日は猿のままだし」
「は、はぁ.....」
「ったく、なによそのリアクションは! っと、で、呪いの解き方も分かったん
だけど...その...紫の魔女を締め上げて解かせるか.....あの.....」
「ナオコ小母さんなら、もう死んじゃったけど」
「ふぅ〜〜〜ん、あの紫の魔女がねぇ〜〜〜って、ぬぁんですってぇ〜〜〜っ?!」
「も、もしかして、知らなかったの?」
「いつ!」
「もう10年、になるのかな...。 母さんを紫の巨神に封じて父さんを自分のものに
しようとしたらしいけど.....なぜか、その後すぐに自殺したって」
「〜〜〜〜〜っ! これじゃ、本当にもう一つの方法しか無いんじゃない!」
「.....で、そのもう一つの方法って?」
「うっ! そ、そのぉ..........アタシ、バージンなのよね...」
「?????」
「で、さ...。 未だ形を成していない強大な魔力を持った男の、その......と、
アタシの、あの......の血が、アタシの......の中で混ぜ合わされたものを口にすれば
呪いは解ける、って...。 コイツの場合は逆。 未分化の強大な魔力を持った
バージンと.....って、何言わせるのよっ!」
「.....なら、あなたたち二人ですれば?」
「アタシたち二人とも魔導師よっ! それにアタシはこんなの趣味じゃないわ!」
「む、酷いぞ、その言い方は...(T^T)」
「.....で、僕たちを追い回して、どうしろ、と...?」
「あんたバカぁ?! そんなの、その.....きまってるじゃ、ない.....」
頬を紅に染め、
そわそわとして。
ちらり。
流し目。
その隣で、
冴えない少年の眼鏡が、
怪しげに光った。
「え?! えぇぇっ!!!!!」
「駄目。 私の純潔は、いか.....シンジ様に捧げるためにあるの」
「れ、レイまで...」
そのとき。
泉から、
何者かが浮かび上がってきた。
「そなたが落としたのはこの金の剣か? それともこの銀の剣か?」
一振りの太刀を胸に抱き、
少し薹の立った黒髪の女性が、
漣一つ立てず、
水面に立っていた。
白い絹の長衣の胸元を、
巨乳、
いや、
爆乳がこれでもかと押し上げる。
その脇で、
とても泉から現れたとは思えない、
身の丈20mに達する黄金の巨人像と白に朱色のラインが入った巨人像が、
盛大な金属音を立てていた。
「あぁぁっ! 凄い凄い凄いす・ご・す・ぎ・るぅ〜〜〜〜〜っ!!!
こんなところでモー○ーヘッ×が拝めるなんて! しかもこの音! A.*.D.の幻像?!」
「.....泉の精霊にしては、随分と遅い登場ね」
「ど〜せ呑んでて出遅れたんでしょ?」
「...呑んでて嫁き遅れ...? それに、シンジ様が落としたのはミスリルの剣」
「あ、いや、その、あの..........ごみん」
図星なのだろう。
凛とした表情も台無しにうろたえる。
..........一部、噛みつきたい言葉もあったようだが。
「..........」
いつのまにかすっかり目の座った少年が、
おもむろに何かを取り出した。
「.....!!! 碇くん、駄目!」
「ちょっと、今はその呼び方じゃないでしょ!」
顔色を変えた少女が止める間もあらばこそ。
少年が、
手にしたマッチを擦る。
.....何故そんなものがここに?
ただならぬもの。
95度を超える最強のウォッカの泉が発するアルコールの蒸気の中、
それはあまりに危険である。
よい子は絶対真似しないように。
「「「うわっちちちちちち!!!!!」」」
風下に居た3人はたまったものではない。
必死に炎から逃げている間に、
シンジを抱きしめたレイは脱出していた。
「.....ひどい目に遭ったわぁ.....NERV謹製ハイポリマーコート...っと、金の魔女
特製の秘薬を塗ってなければ大火傷するとこだったわ」
「ホントホント。 全く誰よ? ウォッカの泉なんて考えたの」
「あたしはエビチュの泉がいい、って言ったんだけどね...。 金の泉って、いいと
思わなぁい?」
「あの...ミサトさん、それではベトベトして気持ち悪いんじゃありませんか?」
「おっととと、地に戻ってるわよン!」
「あ!...っと、でも、せめて日本酒ならこんなに燃えない...って、しまったぁ!」
「ん?」
「ちょっと相田! とっととあいつら見つけないとアタシたちまた3日間は猿に逆戻り
になるわよ!」
「う、うわぁぁぁっ! マズい!」
「じゃ〜ねぃ〜〜〜〜〜」
慌てて追跡に戻る二人を呑気に手を振って見送る泉の精.....
もとい、
酒精であった。
「.....ここまで来れば、すぐには追いつかれないわね...」
少女が足を止めたのは、
柔らかな下草の生えた、
わずかな日溜り。
少年は、
ウォッカの匂いだけで、
まだ少し酔っていた。
胸元に幸せを感じ。 少女が、 視線を落とすと。 アルコールに抑制を解かれた少年が、 鮮やかな谷間に顔を埋めていた。
ブラジャーなど着けていたら、
見えてしまって様にならない装いである。
邪魔ものなど、
ある筈もない。
「綾波.....いい匂い.....」
「い、し、シンジ様...。 今は、レイ、と...あ!」
心地好さに思わず膝の力が抜け、
倒れるレイを、
下草が優しく受け止めて。
その上に落ちてくるシンジを、
レイの肢体が柔らかに受け止めた。
「ん...レイ、柔らかくて、すべすべで...気持ちいい...」
するり。
すらりと美しい少女の脚の、
滑らかな素肌を、
うっとりと撫でる。
「.....シンジ、様.....?」
少し戸惑った、
でも、
とても優しい、
声。
「ね、おねだりして、いい?」
胸元に、
頬擦り。
「.....何.....?」
幸せそうな。
何かを期待するような。
甘い、
響き。
「..........欲しい、な.....」
「.....! .....ずっと.....待ってたわ.....」
「.....頂戴.....全部.....」
繰り返すが、
シンジの酔いはまだ醒めていない。
加えて、
この美少女の香りにも、
したたかに酔っている。
でもなければ、
この世界遺産級晩生美少年に、
吐ける台詞ではなかろう。
「.....はい.....。 あの人たち、しつこそうだから.....お願い.....
.....邪魔が入る、前に.....」
待ち続けた、
最愛の少年の求め。
少女に、
否やがある筈もなく。
..........そして..........
暗転っ!!!
少年の頭が、
2度、
3度、
振られた。
「..........はっ!」
がば、
と身を起こすと。
見渡す限り、
死屍累々。
石になった者。
うずくまって何事か呟き続ける者。
奇声を発して走り回る者。
魂が口から抜けかけている者。
クレーンアームに設えた監督席から撮影する外ン道。
それに見蕩れるヤニ金。
エト・セトラ、
エト・セトラ。
「演技は今ひとつだったが.....よくヤったなぁ、シンジ」
ゲドウ・フラッシュにまでは至らないが、
ニヤリとする外ン道。
意識が吹き消されかけて、
惨状の原因に気付いた。
手加減抜きの、
ゲドウ・フラッシュ。
と。
何か、
とても大切な事を忘れている気がした。
「ん.....シンジ、様...?」
幸せ一杯の、
甘い声。
ぎぎぎぎぎぎ。
軋むように、 頭をそちらに向けると。 一糸纏わぬ美少女が身を起こした。
かくん。
落とした視線の先の、
我が身。
「え、え〜〜〜〜〜と..........」
台本では。
下ろされたところで。
押し倒して。
求めて。
承諾されて。
抱きしめられて。
暗転したら。
そこでカット、の筈だった。
のに。
台本と、
違う。
急激に、
記憶が戻ってきた。
確かに、 レイは、 初めて、 だった。
音を立てて、
血の気が引いていく。
が。
何も言わぬ間に、
柔らかく抱きしめられた。
「.....これが、幸せなのね.....」
陶然とした、
囁き。
「証拠は撮影した。 我が子の成長の記録として保管する。 いいな?/-\」
「あ.....あ.....あ.....」
「.....私のこと.....欲しい、って言ったわよね...?」
「あ...う.....」
「全部、貰ってくれるって.....言ったわよね...?」
「あ、あの.....その.....」
す、
と身を離したレイが、
三つ指ついて。
「.....不束者ですが.....末永く、よろしくお願いします.....」
「こ、こ、こ、こちら、こそ.....よろし、く.....」
その後 − 試写会での一幕 −【2003.1.19追加】