第六夜 ユリア=レークラント
世界には、知るべき事が多すぎる。
無数の書物。失われた知識。異なる種族の英知。そして真理。
なのに世の中の多くの人間は、真理を追究することも、勉学に励むこともなく、日々浮かれて過ごしている。
それゆえに、私達ヴェリナスの司祭が、世界の知識を集め、極め、それを使わなければならないのだ。
ユリア=レークラントは神殿の図書室を見渡しては、よくそうして溜め息をついたものだった。
彼女が信仰するヴェリナスは、知識と正義を体現する女神である。
常に真実を見極め、公正なる正義をもたらす。そのためには、あらゆる事物の理を知り抜かねばならない。
だから、東方山脈の彼方に眠る遺跡から古文書を持ち帰り、神殿に蓄えられる知識を増して欲しいと頼まれたとき、彼女はすぐさま首肯した。
なにより、誰もが忘れ去った知識に触れてみたいという欲求が、彼女を突き動かしていた。
道中の村々でヴェリナスの裁定を行い、争いや不和を取り除くというのも、ユリア率いる神殿部隊の任務だった。
あるハーフリングの村では、騎士達に命じてミュータントの脅威を取り除かせた。
混沌は忌むべき存在だ。世界の歪み、知識の破壊者。野蛮なオークやゴブリンよりも下劣な、公正さや正義の対局に位置する存在。
その災禍が取り除かれ、村人は口々に喜んだ。満足だった。
マノという名前のハーフリングの少女を仲間に加え、一行は山脈へ旅を続けた。
マノはよく笑う陽気な娘だった。知識の追求にはほど遠い、のんびりしたハーフリングという種族にしては、マノは聡明だった。
せめて世の中の人間が、この程度の知識欲を持っていてくれればいいのに。
ユリアは溜め息をついた。
知識は、理性は、冷静さは、野蛮な力を律することができる。
今日まで、そう思っていた。
だが、東方山脈の中腹で混沌の部隊に遭遇し、通常の数倍に変異したミノタウロスを前にして、ユリアのその思いは崩れ去った。
すでに辺りは肉塊の散乱する地獄絵図となっていた。屈強の騎士団の戦術も、弓使いの精密な狙いも、あの怪物の絶対的な力の前には無力だった。
もちろん、ユリアの祈りも、マノの機転も。
低能な半獣の化け物は、下卑た笑いを浮かべると、尾の一撃で二人の意識を奪った。
次に気付いた時、ユリアは卑猥な装飾に覆われた神殿に寝かされていた。
あのルーンは……ラネーシア。人の欲望に付け入り、心を惑わし、世界を影から腐敗させる、忌むべき混沌神だ。
「気が付いたみたいだね。ボクはルキナ。キミはユリアだっけ? あのコから聞いたよ」
「マノ……? あの娘に、何をしたのです!?」
歩み寄る美しい少女に、ユリアは問い返した。
微かな灯りが少女の顔立ちを照らす。
まだ幼さを残したあどけない笑顔。それと不釣り合いに巨大な乳房と、鍛え上げられた体つき。混沌の戦士だ。
「何って……ねえ。そんなことも知らないの? あのね、いやらしいことを考えると、ちんちんがおっきくなるのさ。だからそれを、女の子の穴に入れるの」
少女は自分の股間を指さした。
「女の子の中はヌルヌルで、ひだひだがいっぱいあって、キモチイイんだ。そしたら、ちんちんの先っぽから……」
「な、なっ!? そ、そんなことを聞いているのではありません!! あ、あなた達は……ぐっ」
少女の手に口を押さえつけられて、ユリアは言葉を詰まらせた。
「慌てちゃダメ。だから、今からじっくり教えてあげる。ユリアの知らないこと、たっくさん……」
少女は奇怪なペニスを激しく勃起させ、この上なく残酷な笑みを浮かべた。
知らないことを……たくさん。
屈辱と恐怖で震えているはずのユリアの太ももを、透明な愛液が一筋、流れ落ちた。