第三夜
マ バロウ
ノ=
ずっと、あの人が好きだった。
初めは、憧れてるんだと思っていた。
あの人の美貌、あの人の知性、あの人の気高さ、あの人の勇気。
種族も違うけど。性別は同じなのに。
でも、それでも、ずっと、あの人が好きだった。
知恵の女神ヴェリナスの女司祭、ユリアさんが。
マノ=バロウはハーフリングの娘だ。ハーフリングの25歳と言えば、人間ならまだ少女。
丘に掘った家の炉端でお菓子とお茶をとるのが大好きな、ごく普通のハーフリングだった。
けれど、ユリアさんが村に寄り、畑を荒らしていたミュータントを倒してくれた時、マノは決心した。
冒険者になろう。
この人のお供をしよう。
失われた知識を求め、東方山脈の彼方まで。
道中は楽しかった。村にはなかった危険に何度もさらされたけど、仲間とそれをくぐり抜けた。
ゴブリンをスリングで倒してユリアさんを助けられた時なんか、ユリアさんはにっこりと笑ってお礼を言ってくれた。
とっても、綺麗な笑顔だった。
その時気付いたのだ。自分は、この人が好きだったのだと。
森は深い。山脈は遠い。街を抜け街道を巡り、旅は数ヶ月続いた。そして、ついに東方山脈が見えた。
………
………そんな
………そんな、ここまで来たのに。
巨岩のようなウォーハンマーに、護衛の騎士達が叩き潰されるのを見ながら、マノは震えていた。
山脈の中腹で、一行は混沌の部隊と遭遇した。今まで闘った殺戮神の連中とは違う、妖しげな姿のミュータント達。でも、負けるはずはない。
その思いは、天を突く巨大なミノタウロスを前にして、打ち砕かれた。
生き残った弓使いが、狙いを定めて大弓を放つ。だが、ミノタウロスの肌はあっけなくそれを弾いた。絶叫を上げながら、弓使いは蹄に踏み潰された。
「マノ、逃げなさい!」
「で、でも、ユリアさん!」
「ヴェレナ様がご加護を下さいます! 早く逃げて!」
気丈に叫ぶユリアを前に、マノは躊躇した。
自分に何とか出来る状況ではない。でも、ユリアさんを置いていくわけにもいかない!
「ダメ! 私も闘う!」
短剣を抜き、遙かに高いミノタウロスの顔を見上げる。
だが、無駄だった。
大蛇のような尻尾の一薙ぎで、ユリアとマノはまとめて吹き飛ばされ、そのまま意識を失った。