「な、なんでコイツがいるんだっ!?」
部屋に入ったカナディアは、開口一番、思わず叫んでしまった。
「にゅにゃー! コイツとはしーつれいなのだ! 幼少期の環境ゆえに求愛行動実行能力に一部不調があるミュータント有りと聞き及び、研究協力を惜しまないつもりの我が輩を、コイツなどという適当な代名詞で! そもそも我が輩はお前に対して…」
「そのくらいにしておきなさい、ザナタック」
隣に座ったザラにたしなめられ、狂的天才ケイオスドワーフ・ザナタックは、ピタリと押し黙った。
「はいはい、まあまあ、ケンカしないで。カナディアも、座って」
神殿の会議室の一つ。その円卓の椅子に腰掛けながら、ルキナがうながした。
カナディアも言われたとおりに、大きな木製の椅子に背を預けた。
ルキナの訪問を受け、ルキナとザラに相談することを決めたカナディア。
ためらいはあった。けれど、ルキナへの信頼と、シャルリアンへの執着が、足を動かしたのだ。
けれど…この”自分を機械扱いするトンチキ小人”を前にして、カナディアは早速後悔し始めていた。
「それで…俺…どうすればいいんだよ…」
二人のケイオスヒーローの前ではあるが、ザナタックの存在が気に障って、どうしても憮然とした口調になってしまう。
「率直に言わせていただきますわね」
そんな態度も気にならないのか、ザラは優雅に髪をかき上げると、カナディアの目を見つめた。
思わず、その瞳に吸いこまれそうになり、カナディアは慌てて頭を振った。
ザラの柔らかな唇が、言葉を紡ぐ。
「奴隷になりなさい」
「なっ……!?」
魅了されかけていたカナディアは、言葉の意味を理解すると同時に、絶句した。
戦士の俺が…奴隷に!?
「何も驚くことはありませんわ。許され得ない罪を背負っていて、なおその相手に恋焦がれると言うのなら…戦士としての矜持を捨て、己れを奴隷として捧げる。実に合理的ですことよ」
「で…でも……」
混乱している。言いたいことは色々あるのだが、それが反論となって結晶しない。
「びっくりするのは分かるけどさ…カナディア。ボクとザラとで話し合って、これしかないんじゃないかな、ってなったんだ」
ルキナにも優しく声をかけられ、カナディアはうつむいてしまった。
***
奴隷に…なる。
それは、戦いに身を置き、人から奪い、人を犯し、思うままに生きてきた今までの自分を、完全に否定することだ。
戦闘力があるゆえに『戦奴』として扱われるとしても、日頃の生活は従属と奉仕に終わることになる。
シャルリアン達の奴隷になるとしたら………
日々、エクセリアス姉妹の性のはけ口となり、二人の交わりを助ける玩具となり、快楽を与えるだけの肉人形の扱いを受けることになるかも知れない。
テーブルの下で、痛いほどペニスが張り詰めていた。
欲情しているのか……俺は……
口の中が乾いて、舌が口蓋に張りついている。
今まで自分が扱ったように、シャルリアンに扱われる…
それも、良いのではないか。
いや、むしろ、自分が二人にしたことを償うには、それしかないのではないか……
欲情と、希望と、被虐の心が入り交じって、カナディアの胸中は熱く渦巻き始めていた。
***
「…悪く…ない……」
カナディアは、つぶやくように答えた。
「それで…もし、シャルが受け入れてくれるなら……奴隷になっても、いい」
「カナディア…」
ルキナが嬉しそうに相づちをうった。
「だが…その…一つ、気になる」
「何ですの?」
カナディアは、向かいに座った大きな帽子を睨んだ。
「俺が奴隷になるのはいいとして、やっぱりコイツはなんでここにいるんだ?」
「にゃーははは! オロカモノめ!」
ついに出番とばかりに、ザナタックはぴょーんと円卓の上に飛び乗った。
「戦闘用に発達しすぎたお前のボディでは、性奉仕用の奴隷には性能が不十分なのだ。ではどうする? 改造改修カスタマイズするしかないではないかなのだ!
では一体誰がお前を改造するのだ? うむ! そんな天才科学者は、迷宮広しといえども我が輩しかいないのだ!!」
「おぁ…お…お前が、俺を改造!? ふ、ふざけるなっ!」
「お黙りなさいっ!」
鞭のようなザラの一声に一閃され、カナディアは椅子にのけぞりながら沈黙した。
「奉仕と従属が旨である奴隷になろうという者が、主たるケイオスヒーローの命による改造も受けられないとは、笑止千万ですわ! 奴隷となる心を決めて改造を受けるか、さっさと帰ってまた己れの部屋に引きこもるか、二つに一つ、お決めなさい!」
烈火の如きザラの宣告を受け、カナディアは息を呑んだ。
あのトンチキの改造を受けるなど…耐え難い。
けれど…俺はシャルに会いたいんだ。
耐えられないことを耐えなければ…とても奴隷になどなれるものか!
カナディアは大きく息を吸い直すと、叫んだ。
「分かった! ああ、受けてやる! その代わりおいトンチキ、俺の体は最高に具合の良いヤツに仕上げろよ! さもなきゃあ…!!」
「奴隷の口のきき方ではありませんわ!」
再びザラにピシャリとやられて、カナディアは首をすくめた。敵陣営の将とはいえ、さすがはケイオスヒーロー…とても、逆らえないらしい。
「…ザナタック…さ、様……俺の改造…よ、よろしくお願いし…ます!」
「うむ! 良い態度なのだ!」
ザナタックが…あれで狂気の天才でなければ…素晴らしく愛らしい笑顔を浮かべると、円卓の上で拳を突き上げた。
「さーあ、改造改造、大改造、えぼりゅーしょんなのだ! 実験室を設営、ただちに作戦実行せよなのだーっ! 来い、カナディア!!」
不安そうに振り返ると、ルキナが小さくうなずいてくれた。
それで決意を固め直し…カナディアはザナタックの後に続いて、会議室を出ていった。
●掲載進行時は、期間限定企画として「ザナタック研究室掲示板」が設置されました。 以降の物語でのカナディアの改造は、読者の皆さんのリクエストと意見を取り入れて 行われています。 |