(前半執筆:Sirius★Star)
「貴様がこの腐ったサロンの犬共の頭か?騎士として貴様に一騎打ちを申し込む」
立ちこめる土埃の中、天守から姿を現した男は言い放った。男は、本来帝国と混沌との戦いの最前線を守る辺境伯の地位にあった。しかし、この無骨者の辺境伯は、戦いを忘れ腐敗した帝都の現状に耐えられず、帝政を牛耳るサロンの主達の暗殺を企てたのだった。
暗殺に失敗し、自領に逃亡し籠城戦に備え、国教会の支援を求めた辺境伯の望みは一月のうちにうち砕かれた。辺境伯領に押し寄せた討伐軍は、その指揮官の軍才で伯の守りの隙をつき、さらに夜には何者とも知れぬ怪物達が伯の軍隊を襲うという事件が頻発した。たちまちの内に討伐軍は攻め進み、もはや辺境伯の強固な城さえ落城寸前だった。
「受けて立とう。しかし、随分と口の悪いことだな。その言葉貴公の命であがなってもらうとしよう」
討伐軍を率いる将ローザ・ベラトリックスは静かに馬を進めた。辺境伯を挑発するように兜を脱ぎ捨てる。輝く金髪と色白の美貌が露わになった。
『女だと?』辺境伯は眉をひそめた。しかも、ローザが手にしている武器はエストック。本来歩兵が両手で扱うそれを、彼女は右手一本で支えている。
伯爵は軽く首を振って意識を集中させた。槍をしっかりと握り直すと、乗馬に拍車をあて、一気にローザめがけて駆ける。
「はあっ!」
ローザの気合いとともに、彼女の乗馬は素早く一歩踏み出した。まさしく人馬一体のケンタウロスを思わせる巧みな動きで、槍の穂先をかいくぐる。そして、二組の人馬が交差した瞬間、ローザのエストックが伯爵の体を捉えていた。
片手で支えられているとは思えない力で突き込まれたエストックは、伯爵の身につけた鎖帷子の目をぶちぬき、中枢神経に衝撃を与える急所を的確に捉えていた。伯爵の呼吸と拍動が停止する。
「血を流すことも、苦痛を感じる暇もなく、屠られた気分はいかがかな?流血も苦痛も私の宗旨に反するのでね」
そんなローザの問いも、骸となった辺境伯には聞こえるはずもなかった。
* * *
帝都で権勢を誇る某貴族婦人の屋敷。その広間では先日の辺境伯の反乱を鎮圧した討伐隊の将を囲んで戦勝祝いの宴が繰り広げられていた。帝都のサロンを彩る女性達だけを集めた秘密の饗宴が。
官能的な香の薫りが立ちこめる部屋の上座、奇怪な神像の下に据えられた豪奢なソファには、宴の主賓ローザが深く腰を落とし、帝国でも指折りの血統に連なる娘達の奉仕を受けていた。男物の服は娘達の手で脱がされ、ローザの真の姿が露わになっていた。
彼女の背を飾る巨大な翼と両の脚は猛禽類のそれ。金髪を飾る王冠のようにねじ曲がった角が頭部を取り巻き、二対の腕で娘達をかき抱く。そしてその股間には頭上の神像と同じく、両性の性器が息づき、嬢達の愛撫によってしとどに濡れている。この麗人は快楽神ヴァイアランスの使徒、そしてこのサロンは快楽神の信者の巣窟なのだ。
ローザを宴に招いた主−某婦人の愛娘−は、ローザと対面する形に置かれたソファの上で、召使いの娘達の奉仕を受けながら、その光景を堪能していた。が、ローザに奉仕する娘達が物欲しそうな視線を彼女に向けているのに気づくと、意地の悪そうな笑みを浮かべ立ち上がる。
「ふふっ。ローザ様、まずは、わたくしの体をご賞味下さい」
ローザに奉仕していた娘達は、令嬢のその言葉を聞くと、名残惜しげにローザの体から離れた。
「ふん。私は誰からであろうと構わんよ」
無関心な返事を返すローザの体を跨いで、令嬢はゆっくりと腰を下ろした。召使いの奉仕で十分にほぐれた肛門に、深々とローザのペニスを受け入れる。
このサロンに集まっているのは、全てが未婚の貴族令嬢達である。彼女らにとって、自らの処女は政略の道具として用いるべき大切な財産であり、快楽神の信者といえどうかつに散らせるものではない。その代わりとして、彼女らは女性器以外で快楽をむさぼる技に磨きをかけているのだ。
「ひぐぅっ!お尻が、お尻が熱いのぉ!ローザ様、もっとえぐってぇ!」
令嬢はローザの一突き毎にあられもない嬌声を上げ、尻を振りたくって悶えた。
「さぁ、淫らな雌ブタめ!私の精をくれてやろう!」
ローザは侮蔑の響きのこもった言葉と共に、令嬢の直腸に精を放った。その瞬間、令嬢はひときわ高い声で鳴いた。ローザがまだ脈打つペニスを直腸から引き抜いた後も、彼女は犬のように舌を出してあえぎながら、直腸内の体液の感触を噛みしめていた。
そして、新たな娘の肛門を背後から貫き快楽をむさぼりながらも、ローザの胸の中では満たされない想いが募っていた。血筋を誇るばかりで、一皮むけば娼婦と変わりないサロンの令嬢達との交わりでは満足は得られない。ローザの体と魂は、真に高貴なる者、輝く魂を持つ者との交わりを望んでいた。
−あの方と交わりたい。我が主ザラ=ヒルシュ様と!
東の空が白み始めた頃、ローザは快楽をむさぼり尽くした後の倦怠感がただよう広間の扉をくぐった。快楽を味わい尽くすための媚薬の反動でぐったりとなった令嬢達に代わって、館の召使いの娘達が再び人間の姿をまとったローザの服を整えていく。裸に革ひもと金具だけの服を着せられた娘達の背中や尻には無数の鞭の痕が残っている。
ローザは、主の嗜虐的な嗜好を思い出した。ようやく意識を取り戻し、彼女を追ってきた令嬢に型通りの辞去の礼を取ると、こう切り出す。
「お嬢様。今宵の宴の記念に、この娘達を頂けませんか?我らの屋敷に、お嬢様が躾けられた召使いを迎えられれば、光栄の至りなのですが」
令嬢に否はなかった。その目に隠しようのない嫉妬の念を浮かべながら、彼女は娘達を載せる馬車を用意させた。
弱者にも苦痛ではなく慈悲と快楽を。それがローザの信条だった。
そして、宴の場を辞し、帝都でのザラの館に向かうローザの胸には一つの決意があった。
−ザラ様にお会いしなければならない。
* * *
ザラとローザが初めて出会ったのは、帝国辺境の森林の中に位置する村でのことあった。
ローザは、その村に立ち寄った戦女神に仕える神聖騎士団の一員だった。彼女が属していたのは斥候部隊。近頃辺境で勢力を増しているといわれる混沌の軍勢に対する討伐隊の先触れとして辺境を巡り、敵情を調べるのが任務だった。それ故、ベースキャンプとしていたその村に混沌の軍勢の一隊が近づいていることに気づいたときも、斥候部隊を率いる上官は防衛施設とてない村を守って戦い、収集した情報ごと全滅する危険を冒さず、速やかに撤退することを決めたのだった。
しかし、村人達にとって自らの家とささやかな畑を手放して生きていく道はない。彼らには、村の門を閉め、家にこもって、混沌の怪物達が自分たちに気づかずに通り過ぎることを祈るしか道はなかった。そして、ローザには彼らを見捨てることはできなかった。戦女神の戒律では、上官の命令は絶対である。この村に留まることは、神聖騎士団から破門されることを意味した。それでも、弱者を守るのが騎士の務めと信じるが故、ローザは村に留まった。
村に押し寄せた混沌の軍団は、おびただしい数を誇っていた。殺戮神のシンボルを描いた血色の旗が村を包囲し尽くす。ローザ一人ではいかに剣技と知略に長けるとはいえ、一刻もかけずになぶり殺しにされるだろう。それでも、彼女は何事かなさずにはいられなかった。
悲壮な覚悟と共にローザが村を出ようとしたとき、彼女の前にどこからともなく奇怪な鎧をまといマントをなびかせた赤毛の貴人が現れた。
『貴女がわたくしに仕えると誓えば、殺戮神の軍勢からこの村の者の命を救って差し上げますわよ』
赤毛の麗人ザラは優雅に笑うと、ローザにそう呼びかけたのだった。ザラの頭部を飾る二対の色鮮やかな角。混沌の軍勢との戦いをあまた経験したローザの目には彼女もまた混沌の使徒であることは明白だった。
しかし、ローザはしばしの躊躇いの後、ザラの前に跪き、君臣の契りを交わした。
騎士として研ぎ澄まされた感覚が、ザラが備えた、自らの身を捧げるにふさわしい支配者としての器を感じ取っていた。厳しさと寛容のバランス、研ぎ澄まされた知性、強大な力、そして何よりも高みを目指す強固な意思。戦女神の騎士として、日々高みを目指して技と知略を鍛えてきたローザの心に共鳴する何かがザラにはあった。
ローザの直感は、殺戮神を奉じる怪物達を前にしたザラの戦いぶりを見て確信に変わった。ザラ自身の強力な魔法が巨大なオーガを一撃で屠り、号令一下、ザラにその身を捧げた快楽神の使徒達が、グリーンスキンの大群を分断し、各個撃破する。ローザは、伝説の建国王にも匹敵する将としての才に感嘆した。そして、戦いのため真の姿を現したザラの姿は奇怪でありながら、同時に何者をも欲情させる美を備えていた。
力においても美においても、この身を捧げるにふさわしい主にようやく巡り会った。ローザはザラの指揮の下、愛用のエストックを振るいながら歓喜に震えていた。
そして、その夜、殺戮神の軍勢から救われた村での饗宴−村人達を巻き込んだ快楽の宴−の席で、ザラに処女を捧げたローザは、ザラの寝物語を聞いて驚嘆した。この強大な魔人ザラが、元はただの人間の村娘に過ぎないというのだ。
『混沌は貴女に無限のチャンスを与えますわ。もちろん、それに見合う対価は必要ですけどね』
ザラはローザを抱きながら、そう教えてくれた。ザラの手は、ローザの入信を祝福するように、彼女の体にくまなく奉仕しているケイオス・スポーン達を撫でていた。変異を重ねるあまり、知性のない怪物と化す−それも混沌の力の代償の一つだった。しかし、自らが踏み入れた道に恐怖を感じながらも、無限の力への挑戦にローザの心は奮い立った。
翌日から、ローザの混沌の戦士としての奉仕の日々が始まった。彼女は戦女神の騎士として培った、剣技と知略を礎に、ザラ配下の混沌の軍勢を指揮する将の一人としての地位をたちまちの内に築き上げた。快楽神ヴァイアランスの信仰を帝国内に広めるため、邪魔な有力者を攻め滅ぼし、快楽神に敵対する殺戮神の信者達と戦う。そして、戦いで功を上げる度、ザラはローザを激しく抱いてくれた。ザラとの交わりは、それ自体ローザの喜びであり、さらにはその交わりを通じて、ローザは新たな混沌の力を授かってきたのだった。
永遠に続くかと思われたその日々は、数ヶ月前、ザラがライバルとの戦いのため、この世界を離れたことで途切れた。主の留守の間も、ザラが帝国の内外に築き上げた勢力を守り、拡大するために、ローザは他のザラ配下の混沌の使徒達と共に、政略を巡らし、敵対者と戦ってきた。
しかし、敵との戦いの中にも、信者達との享楽の宴にも、ローザは真の満足を見いだすことができなかった。この世界に残った他のザラの配下達の中にも、想いを同じくする者は大勢いるだろう。帝都の貴族信徒の中にも、ザラの来訪を求める声が時折聞かれる。
−次元の彼方の迷宮に宿営するザラ様をお訪ねし、ザラ様をお諫めせねば。ザラ様はルキナ殿との戦いに我を忘れていらっしゃる。快楽神の使徒同士で雌雄を決するのに熱中するあまり、侵略の手を緩めたのでは、決して快楽神はお喜びにならないはずだ。
* * *
帝都の防壁の内側、帝政を動かす大貴族の邸宅が並ぶ地区の一角に、奇妙な館があった。
皇族クラスの貴族の屋敷として作られた小さな城といっていいような広大な館には人の気配がなく、それでいながらその庭も、色ガラスの飾り窓も小綺麗に清められている。そして、何よりも奇妙なのは、帝都の誰もこの館のことを話題にしないことだった。
その館こそザラの帝都での本拠地。ザラの施した強力な魔法で守られた館は人々の注意にとまらず、仮に館を目にするものがいても、次の瞬間にはそのことを忘れてしまうのだった。ただ、ザラに選ばれた配下の者だけが、この館に入ることを許されている。
その館の扉がローザの前で開かれた。扉を開いたのは、魔法で命を吹き込まれた召使い姿の人形達だ。
「ローザ様、お帰りなさいませ」
扉の奥から出てきた黒髪のメイドが、ローザとその「土産」の娘達を迎えた。素直な黒髪が幼さの残るバラ色の頬を縁取り、小ぶりだが形の良い胸へと流れ落ちている。
「リリィナ、出迎えご苦労だね。この娘達は君の新しい同僚だ。食事と部屋を与えてやってくれ」
ローザの指示を受けて、黒髪の娘は不安そうに周囲を見回す娘達に優しく微笑みかけ、食堂へと案内する。黒髪の娘の名はリリィナ。ザラと契約を交わすことでローザが救った村の娘だ。混沌への奉仕の末両性具有の体を授かったローザの、「男」としての最初の相手でもある。
ローザ自身はザラから割り当てられている部屋に入り、人間としての仮の姿と衣を脱ぎ捨てた。そして、床に置かれた衣装櫃を開き、混沌の戦士としての武装を取り出す。そこへ、リリィナが現れた。
「ローザ様、いかがなさいました?」
「…館の管理を委ねられているはずのリサリアとルカルナはどうした?」
ローザはリリィナの問いには答えず、逆に彼女に問うた。
「ザラ様の名で、デーモンの方々が迷宮にお連れになったそうです」
「…そうか。ザラ様は、迷宮に腰を据えるおつもりと言うことか」
誰に告げるともなくそう言うと、ローザはリリィナを促し、武装を整えるのを手伝わせた。混沌の材質で織られたビスチェ風の鎧を身につけ、4本の腕それぞれのための4本のエストックを腰のベルトに吊す。
「あの…。もしや、ローザ様も迷宮にいらっしゃるので?」
捨てられることを恐れる子犬のような目でリリィナが問うた。ローザはゆっくりとうなずくと、リリィナの頭を撫でた。
「心配するな。すぐに、ザラ様をお諫めして、共にこの館に戻ってくる」
そして、ローザは櫃の奥底に厳重に封印されていた武器を取りだした。ザラから下賜されたデーモンウェポン。次元移動の力を持つデーモンを封じた強力な魔剣だ。
ローザの胸にリリィナはすがりついた。ローザも彼女を抱き寄せる。
ローザの腕のうち、一対に着けた籠手がカチャカチャと金属音を立てた。蛇腹のようにして、籠手が複数のパーツに分かれ、関節とは関係なく曲がっていた。肘から先がずるずると伸び、リリィナの体に蛇のとぐろのようにまとわりつく。指先の穴から這い出した触手はリリィナの衣装の隙間に次々と入り込んだ。ローザの腕の一対は、混沌変異により肘から先が自在に曲がり伸縮する5本の触手と化しているのだ。変幻自在の触手は戦いでは全く視角のない攻めと守りを可能にし、かつ快楽をむさぼるときには相手の体にまとわりつき、体中の穴という穴に入り込む。
「あぁっ!ローザ様ぁ、ボク達を捨てないで下さい!ふっ、ああぁぁぁっ!」
たちまちのうちに登りつめ、ぐったりとなったリリィナをソファに優しく寝かすと、ローザはデーモンウェポンを頭上に掲げた。
「ザラ様の下へ!」
ローザをピンク色の閃光が包んだ。